2016-10-30

錯覚

こんな夜に起きているのは、私独りだけなんだと感じてしまう。実際は違うのだけれど、私独りだけが不幸なのだという錯覚に一度陥ってしまうとなかなか抜け出せない。
どんどん不幸度が上がっていって、何事も上手くいかない気がして、やるべき事が見えなくなって、雁字搦めになって、二進も三進も行かなくなって、行き詰まって、自暴自棄になって……
どうすれば抜け出せるのだろうか? いくら考えても答えは出ない。思考の迷宮に迷い込んで苦しくなるだけだ。そのうち呼吸も下手になっていく。このままではダメだってことはよく分かっている。分かっているから変えようと試行錯誤しているわけだけれど、やっぱり上手く行かなくて錯覚は深まる。
いっそのこと、全てを捨てて一からやり直せたら良いのに。どこかにリセットボタンはないか? 体を探る。ありもしないものを探して、どうするつもりなのだろう。私は……

2016-10-27

モノ

大幅なアップデートにより繰り返される再起動に嫌気がさして電源コードを抜いてやった。
もういい。こんなポンコツ、誰が使うか。今すぐ捨ててやる。
いやいや。うそうそ。ごめんごめん。お願いだから動いてよ。
相反する感情に募る苛立ち。おい。いつまでやるつもりだよ。お前、そんなボンクラだったのかい? なんで声をかけながら見守る。物も者も同じモノじゃないか。付喪神なんて昔から言うじゃないか。きっとこいつも神様なのさ。だから大事にしてやらないとな。

上島はそう言って、もう動かなくなった機械を撫でた。

更新

「更新中です更新中です更新中です更新中です更新中です更新中です更新中です……」
ジェーンが繰り返す。
「あ、更新するなら充電コード差しとかないと電池切れしちゃうよ」
僕がそう言うと
「はい。充電コードを差します」
とジェーンが言って充電を開始した。更新中なのに自分で充電を差すなんて出来るんだ。最近のアンドロイドは性能がいいなぁ。
それにひきかえ僕は更新が始まると全く動けなくなる。更新中に電池切れになろうものならリセットされてしまうのだから、最新式はやっぱり違うな。

ジャスミン茶に甘えて

ジャスミン茶を淹れる。紅茶や珈琲は自分で淹れても美味しくないけれど、ジャスミン茶はどれだけぞんざいに扱ってもそれなりに美味しいから良い。だから自分で淹れる。
電気ケトルでお湯を沸かす。カップとポットと小皿を用意。カップにジャスミン茶のパックを放り込む。パックだと計らなくても良いし、捨てるときも楽だ。電気ケトルのスイッチがパチリと切り替わる。お湯が沸いたのだ。ポットとカップにお湯を注ぐ。少し待ったらカップからポットにパックを移す。ふぅふぅ、と息を吹きかけて冷ましながら香りを楽しむうちにポットの方も良い塩梅に色づいていく。パックを小皿へ。これで良い。本当はもっとちゃんとした淹れ方があるのだろう。けれど、私はジャスミン茶ならこんな感じでも許してくれると信じている。ポットが空になったら、またポットにパックを入れてお湯を注げば良い。さっきより長く置いておけばまたジャスミン茶が飲める。ジャスミン茶なら無精も許してくれる。
きっと、本物を知らないからこんな事が出来るのだろう。珈琲は本当に美味しいお店を知っている。彼処の珈琲は本物。インスタントじゃ満足できない。本格的と本格は別物。まだ本物の紅茶は知らないけれど本格的な紅茶なら知っている。あの店と、あの店。あと、あそこも。自宅で茶葉を買って飲んでもなんだか違う味になる。だから、自宅では淹れない。
ジャスミン茶は優しい。私の無精を受け入れてくれる。多少の無茶なら訊いてくれる。その香りで癒してくれる。心のササクレをそっと潤してくれる。だから、だから、だから、だから……

日常の空虚さについて

一つ頑張れた。頑張ったことにして日記に書き付ける。良いことや頑張ったことを手帳に書くと良いらしい。どう良いのかはちゃんと読んでないから知らないけれど。まぁ、とにかく良いとならばやってみようと今日の出来事を振り返ってみるのだけれど、何もない。何もないことに気づく。空虚な一日だった。その空虚さに愕然とする。そして、少しほっとする。充実した一日というモノが、なんとなく恐ろしく感じる。なにがしかの強迫観念に駆られて充実させたのではないか? 知覚できないなにがしかに操られていやしないか。そうでなければ私の日常が充実するはずもないのだ。だから、一日を振り返って空虚さを感じると安心する。私は操られていない。

2016-10-16

あぁあ。

空は晴れても気分は晴れない。そんな日はいっそ雨になれば良い。そう思う。けれど、そういう時に限って降水確率ゼロパーセントのカンカン照り。「え? 季節間違えてない? 今、秋だけど? 小春日和どころじゃないけど?」みたいな。
ベッドの上で端末をいじって時間を遡ると、楽しそうな言葉が並んでいて余計に気分が塞ぐ。何もしないでじっとしているべきなんだろうね。けれど、手持ち無沙汰で落ち着かないの。だから、エディターを起動する。そして、毒にも薬にもならないような言葉をこうして書き連ねているの。
あぁあ。つまんないの。あぁあ。やなことばっか。あぁあ。面白いことないかな。あぁあ。ゲームのスタミナ回復待ち。あぁあ。あぁあ。あぁあ。

2016-10-15

もう少し

日菜子が最近一緒に昼食を食べてくれない。理由は大体察しがつくのだけれど、日菜子の口から聞きたい。それまで待ちたい。私からぐいぐい尋ねてみるのもいいけれど、きっと日菜子は意固地になって余計に口を固くするだろう。だから静観しているのだけれど、学食の私の死角になる位置で彼とイチャイチャするのは……なんというか……死角になっていると本人たちは思っているのだろうけれど、がっつり見えている。それはもう、がっつり見えている。隠れてない。隠しているんなら別いいいよ。彼氏いない私に対する最大限の配慮だって分かってるし、私、気づかないふりするよ。でもさ、もう少し……なんというか、もう少し何かなかったのだろうか……親友の恋が成就した。喜ばしいことではないか。素晴らしい。私は手放しで支持するよ。すごく祝福するよ。もしかして、隠してるのって……いや、やめよう。今日の日替わり定食は私の好物である唐揚げ。唐揚げに集中しよう。私に彼氏ができたことを全力で隠しているにもかかわらず、全然隠せていない親友とその彼氏の浮かれた姿は見えない。見ていない。そんなものは存在しない。そう。私の親友は今、自習室で課題と向き合っている。日菜子がそう言っていたんだ。親友の言葉を信じよう。そう。私は親友を信じる……信じるぞ……信じ……あー、無理! 嘘下手かよ!

2016-10-13

秋黴雨

小ぶりだが溶けにくく爽やかな味が長く続く。一粒が小さいさく薄味なので五つほど一緒に舐めるとちょうど良い味。眠気覚ましにおすすめ。

秋時雨

ほろ苦い味の飴玉。大きさはまちまちで、苦さも一定しない。舐めているうちに苦味が増したかと思えばほの甘く感じるなど、舌の上で変幻自在に味を変える。舐め終わると少し冬が近づくという。

厭なモノ洗い流して好きなモノ残して行って欲しかったのに #秋雨のカノン

雨上がりの澄んだ空気は好きだけれど、地面を染めるオレンジを見ると哀しくなる。せっかくの金木犀がこれじゃ台無し。厭なモノだけを選んで洗い流してくれたらいいのに。例えば、今私の心の奥底から滲み出ている毒のような感情とか、どうにもならない倦怠感と睡魔、解決策の見出せない諸問題……
ポットにたっぷりジャスミン茶を淹れて一休みしよう。咎められる事を恐れていては後退する一方でちっとも前進しない。
私は私でなければいけないけれど、私でなければならない理由はどこにも無くて、多少の怠惰ならば誰かが勝手に埋めてくれる。私の存在なんて所詮その程度と言えば辛くなるが、いつでも引き継げるように効率の良い手順書を私は前以て用意していたのだと思えばくだらない矜持も保つことができる。物は考えようだ。良い方に考えよう。良い方に。それが一番難しいのだけれど……あぁ、秋雨が厭なモノだけを綺麗に洗い流して行ってくれれば良いのに! そして後に残るのは、前向きで意欲的な私!

2016-10-06

ずっとこのままだよ。良いの?
なにも変わらないままだよ。
なにかはじめてみなよ。
買っただけでほったらかしにして……。

ずっとこのままで良い何て思ってない。だから、出きることからやってるよ。
変えようとずっともがいているよ。
色々はじめてみたよ。
ほったらかしにしているんじゃなくて、上手くいかなくて違う方法を探しているの。そもそも、あなたがなにかはじめろと言ったんじゃない。

そんなんじゃダメじゃん。
ほったらかしにしてたから動かないんだよ。
あれが悪いに決まってる。だって、止めたら調子よかったじゃん。

上っ面だけ見て否定しないで。克服するために小さな目標からやってるの。
出きるものなら使っていたよ。それができないから苦しんでるの。
素人の浅知恵で決めつけないで。あれは調子が良かったんじゃなくて制御不能に陥っていただけ。

改善策を練って、実行して、結果を分析して、また策を練って……そこに横槍いれないで。

簡単に言うけれど、出きるものならやってるよ。

あなたは無自覚に私を言葉で縛り上げて追い詰めて悪化させる。善意は毒だ。私はあなたの善意に蝕まれている。

あれはよくないよ。
こんなことするから悪化するの。
それは控えた方がいい。

そう言って私からどれだけのものを取り上げた?
私は幾つかの物事を諦めて我慢している。

気分転換してみたら?

気分転換の方法を私から奪ったのはあなたでしょう?

私はあなたの毒に苛まれている。