2016-08-24

永すぎる夜は群青

ベッドに横になってストレッチをする。いい匂いのハンドクリームで指先から順にマッサージする。精神を安定させるツボや睡眠を促すツボを念入りにマッサージ。
時計の針は律儀に時を刻む。私を刻めば良いのに。
あくびは群青に吸い込まれて私は眠れない。眠れない夜は永すぎる。「私は正しくない」という考えが頭の中で回りはじめる。そうしたらもうダメ。朝が来るまで眠れない。

2016-08-12

MDウォークマン

掃除をしていたら数枚のMDとウォークマンが出てきた。あの頃は、最高にクールでイケてる子はみんな持っていた。私も欲しかったけれど難聴になるとかなんとか言って買ってもらえなかった。説得に説得を重ね、お年玉で購入する許可を得たときは「これでやっと私も最先端の音楽を手に入れることができた!」と有頂天になったものだ。
なのに、最先端を手に入れて半年もたたないうちにMDは古いメディアとなった。みんなはリンゴのマークが描かれたMDウォークマンよりもたくさんの音楽が聴けて、しかも今聞いている音楽のタイトルなどがすぐにわかる携帯端末に夢中になった。MDは録音しただけではタイトルすら記録されない。いちいち歌詞カードとにらめっこをしてタイトルを入力しなければならなかった。横着者の私はこの作業を怠ったが、MDに録音できる曲の数なんてたかが知れているから繰り返し聞くうちに自然と覚えるてしまって問題なかった。
そうだ。この頃は音楽がとても濃厚だった。それは多分、限界があったからだ。録音できる曲数に限界があったから録音する曲を慎重に選んでお気に入りの曲を何度も何度も繰り返し再生していた。カセットテープなら擦り切れていただろう。それくらい繰り返し聴いた。でも、今は?
PCでガバッと買ってきたCDを……いや、もうCDを買うことすらしないか……スマホでサクッとダウンロードして、数回聞いたらすでに沢山保存されている音楽の群れの仲間入りだ。時折シャッフル再生で流れ「これなんだっけ?」と首をかしげて画面を確認する。
私はMDウォークマンの充電器を見つけると充電を始めた。まだ動くだろうか? 動くだろう。「マイベスト」とラベルの貼られたMDにはあの曲が録音されているはずだ。あの曲と、あとあれも。あれはこっちに録音したんだったっけ?
充電が完了するまで、後、沢山。

気休めにホットミルクを

眠れない夜に、原因を探す。カフェインは摂取していない。スマホの電源は二時間前に落とした。ストレッチもした。それでも、僕はまだ眠れない。
「夜の街に取り残されている」
なんて詩的な言葉で誤魔化してみても、眠れるわけはない。
別に、良いんだ。眠れなくても。明日、早起きしなければならないなんてこともないし、なんなら昼まで寝てても良いくらいなのだから……
それにしても、眠れない夜というのはどうしてこうも長いのだろうか。仕事で徹夜した夜はあっという間で「頼むから太陽はもう少し昇るのを待ってくれ!」と願うくらいなのに、ただただ眠れない夜というものは途轍もなく長くて終わりが見えない。もう一生夜が明けないのではないか? と勘違いしてしまうくらい長い。あぁ、はやく、はやく、朝日が見たい。朝日が見えれば、そうすれば安心して眠ることができるのに! なのに、窓の外は真っ暗。真夜中の空気は暑くて湿っぽくて、気持ちが悪いんだ。窓を閉め切っていても、クーラーを点けていても、滲んでくるんだ。逃れられないんだ。
僕はベッドを抜け出し、暗いリビングで独り、気休めにホットミルクを飲んで小さく丸くなっている。